あまり知られていないけど日本人が注意するべき外国語の発音

日本語話者が外国語を学ぶ際には、日本語の発音や表記法に由来する発音上のクセを意識的に修正する必要があります。「see [s]」と「she [ʃ]」や「r」と「l」の区別、日本語に存在しない英語の「v」、「th [θ], [ð]」などは有名で、よく取り上げられることがあるので知っている人も多いでしょうが、ここではあまり注目されないけれど注意するべき外国語の発音をまとめました。

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画像はWikipediaから切り取り

 

母音「ウ」

まず注意するべきなのは、母音の「ウ」です。日本語の母音「アイエオ」は割と素直な母音なのですが、「ウ」だけは方言差が大きい母音であるため、注意して発音する必要があります。

多くの外国語で「ウ」として表記される [u] は「円唇・後舌・狭母音」です。つまり唇を強く丸めて、舌の高い位置が口の中の一番後ろにあり、舌を上顎に最接近させて長音する母音です。

一方で、日本語の「ウ」は、東日本の発音ではあまり唇の丸めが起こらず、また中舌母音気味の、つまり舌が中間くらいに位置する中途半端な母音です。個人差もかなり大きく、人によって発音がまちまちです。

一方で、母音の [u] は、英仏独を始め、スペイン語、イタリア語、ロシア語、アラビア語等かなり多くの言語に使われている超基本母音です。日本人が [u] を発音する際には、日本語の「ウ」のことは一旦忘れて、母音の「オ」を発音しながら「ひょっとこ」や「タコ」をイメージして口をすぼめ、唇を思いっ切り突き出して発音するのが良いと思います。

二重母音と長母音

日本語では、「おじいさん」と「おじさん」を区別する通り、母音の長短の区別があります。しかし、その表記は極めて複雑で、特にエ、オ列では表記が一貫していません。以下に実例を整理しておきましょう。

 

例えば、「おねえさん (オネーサン)」 では「エ列+え」ですが、「英語(えいご、エーゴ)」 では「エ列+い」でエの長母音を表記します。また、雑煮 (ぞうに、ゾーニ) では「オ列+う」、「大きい (おおきい、オーキイ) 」、「通る (とおる、トール)」では「オ列+お」と表記されます。カタカナも含めれば、「ボウリング」、「ボーリング」の表記ゆれもあります。

それがどうした、と思われる方も居るでしょうが、ここに日本語なまりの原因があります。長い母音「eː , oː」と二重母音「ei ou」を混乱してしまうのです。英語で言えば、bought [bɔːt] と boat [boʊt]、caught [kɔːt] と coat [koʊt] をちゃんと区別できるでしょうか。少し注意すれば区別することは容易だとは思いますが、注意してください。

なお、ここで英語特有の問題を挙げておくと、英語は表記から長母音と二重母音を区別することが基本的には不可能です。 "road" は「ロウド」なのに、"broad" は「ブロード」になります。そのため、英単語を勉強するときには必ず発音記号を確認しましょう。(英語以外の言語は、英語ほど発音と綴りの対応が悲惨な状況になっていることは無いのであまり問題になりません)

母音の無声化

演劇をやっていたり、あるいはアナウンサーや声優などの勉強をしていた人なら「母音の無声化」という現象を耳にしたことがあるかもしれません。母音の無声化には例外も多いですが、原則としては、母音「イ、ウ」のうち、無声子音「か、さ、た、は、ぱ行」に挟まれているか、語尾にありアクセントのないものが無声化されます。

たとえば、作詞「sakusi」学生「gakusei」深い「Hukai」などが挙げられます。

綺麗な日本語の発音をするためには必要な母音の無声化ですが、外国語を学ぶ上では日本語なまりの原因となります。「シカゴ」や「シティ」と英語の「Chicago」や「city」を発音して比べてみてください。ちゃんと母音の「i」を発音できているでしょうか。

ハ行子音

日本語の子音のうち、ハ行の子音は全く均一ではありません。これは、「ハヒフヘホ」がもともと「パピプペポ」と発音されており、次第に「ファフィフフェフォ」→「ハヒフヘホ」と変していったことに起因します。昔の時代に日本にやってきた外国人が書き残した文章を見ると、ハ行がpやfで表記されていることから分かるのだそうです。雷や電気が光る様子を「ピカピカ」という擬態語で表すのは、古い日本語の形が残っているからなのですね。

ハ行のなかでも「ハ・ヘ・ホ」は無声・声門・摩擦音で、これは普通に息を吐くときの音なのですが、「ヒ」と「フ」は、それぞれ、軟口蓋(口の中)、唇で呼気を摩擦させて調音する子音です。

分かりやすく英語の例を挙げると「he」や「who」をちゃんと発音できているでしょうか。これらは、「ヒー」や「フー」ではありません。喉 (声門) 以外では摩擦が起こらない、単に息を吐くときの音です。一番簡単な発音方法は、「he」は「ヘ」の口をして「イー」と言う、「who」は「ホ」の口の形をして「ウー」と発音することです。何だかしまりのない、ゆるい音だなぁと思うかもしれませんが、それが「hiː」や「huː」の本来の発音です。

とは言え、英語ではあまり [h] の発音に神経質にならなくても良いかもしれませんが、たとえばドイツ語では hとchを区別しますし、我らがアラビア語にはハ行子音に該当する子音がなんと4つ (ه、 ح、 خ、 ف) 存在します!

まとめ

外国語の発音を学ぶ上では、母語の発音を意識して矯正することが、遠回りのようで近道です。

なお、このエントリの元ネタは以下の2冊の本です。

脱・日本語なまり―英語(+α)実践音声学 (大阪大学新世紀レクチャー)

脱・日本語なまり―英語(+α)実践音声学 (大阪大学新世紀レクチャー)

 
日本語音声学入門

日本語音声学入門