ニュージーランド女性首相の妊娠のニュースについて

去年夏ごろからボチボチと続けているオンライン英会話ですが、会話ネタとして提供されているニュース記事がおもしろかったので紹介します。

New Zealand Prime Minister Announces Pregnancy


昨年秋に就任したニュージーランドの女性首相ジャシンダ・アーダーン首相が、1月19日にインスタグラムで妊娠を報告したというニュースです。出産予定日は6月と伝えられています。アーダーン首相は現在37歳で、同国でも最年少の首相とのこと。女性であるという以前に、比較的若い人が国家のリーダーとなれるニュージーランドは凄いですね。


実は、ニュージーランドは世界で初めて婦人参政権を実現した国で、ジャシンダさんは同国では3人目の女性首相なのだとか。在職中に出産した女性首長は世界では2人目で、最初の事例はパキスタンの1988年の女性首相とのこと。

9月に実施された総選挙の後、連立政権の交渉中に妊娠が発覚したと言われています。ニュージーランド人はおおらかだなぁという気もしますが、これはめでたいことです。子供は「授かりもの」であって、産まれることにも死ぬことにも人知が及ぶものでは無いのであります。

ジャシンダ首相の夫、ファーストレディならぬファーストマンであるクラーク・ゲイフォールド氏は、テレビパーソナリティ(ときどき釣り人(笑))だそうで、首相が産休後に職務復帰した後は夫が子供の面倒を見る予定と伝えられています。

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このニュースについて、複数の講師と何回かディスカッションしてみたのですが、各国の男女観・家族観などが分かって面白いものでした。

ジャシンダ首相は、昨年労働党党首としてテレビ番組に出演した際、番組司会者から「将来子供を産むつもりか?」と問われ、「公の場で女性にそのような質問をするべきではない」とハネ除けています。

この考え方についてどう考えるか、というディスカッションのお題があったのですが、「出産以外にも人が突然辞めたり病気になったりすることはあり得るので、妊娠出産以外でも対応できるようにするべきで特に考慮する必要はない」という意見、あるいは逆に「世間話で『家族は何人が理想?』などの質問も控えなければいけないのはやり過ぎでは?」、「そうは言っても女性の出産は普通にあり得ることだから、周囲の人が準備できるよう同僚女性に家族計画について質問するのはやむを得ない」など、賛否両論の意見があり非常に興味深いものでした。

それはともかく私も総理大臣を妻に持つ釣り人になりたい。

『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』

 

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット  人工知能から考える「人と言葉」

働きたくないイタチと言葉がわかるロボット 人工知能から考える「人と言葉」

 

 

ここ数年、ディープラーニングなどの機械学習手法の進歩によって、自動翻訳や自然言語処理分野が目覚ましい速度で進歩しています。iPhoneのSiriなど、ある程度実用的なレベルで言語を理解するアプリケーションも登場し始めています。

報道を見ていると、「もうすぐにでも言語を理解するAIができる」、「これまで解けなかった困難な問題を解決する目処が付いた」という楽観論もあり、一方で「AIには永遠に言語を理解することはできない」という主張もされており、一体何が正しいのかはすぐには分かりません。

実はこれは、「言語を理解する」ためにさまざまな機能が必要であることが原因です。

 

この本の著者は、言語学自然言語処理を専門とする研究者です。主人公である「イタチ」たちが言葉を理解するロボットを作ろうとさまざまな方法を試行錯誤するという物語を通して、一体「言葉を理解する」とはどういう意味があるのかを描き出しています。

第1 章 言葉が聞き取れること
第2 章 おしゃべりができること
第3 章 質問に正しく答えること
第4 章 言葉と外の世界を関係づけられること
第5 章 文と文との論理的な関係が分かること(その一)
第6 章 文と文との論理的な関係が分かること(その二)
第7 章 単語の意味についての知識を持っていること
第8 章 話し手の意図を推測すること

ここで引用したのは本書の各章のタイトルですが、「言葉を理解する」ためには、これだけのことが (最低限) 必要であることが分かります。

 

特にこの本を否定するつもりは無いのですが、実際のところ、自然言語処理言語学に少し興味があったり、大学で単位を取った人であれば、本書に書かれていることは既に知っていることも多いと思います。しかし、本書の優れたポイントは、イタチたちの試行錯誤を通して、現状の自然言語処理では不可能なことにフォーカスが当てられている点です。

たとえば、4章ではディープラーニングを使って、言葉と画像が対応づけられるようになったことが取り上げられています。けれども、ディープラーニングは、「犬」「猫」「リンゴ」のように具体的な画像で表せる言葉を扱うことは得意ですが、「愛」「権利」「無」のような抽象的な語、「恋人」「親」「社長」、「商品」「ゴミ」といった人や物の役割を表す言葉、動作や論理を表す語については、(まだ) うまく扱えていないようです。(なんとなくこの辺り、中世哲学における普遍論争を連想します。) ディープラーニングが画像や動画を基礎とする限りは、この問題の本質的な解決は難しそうです。

それ以外にも、文と文の間の論理的な関係を推論すること、常識的な知識を持つこと、それらを組み合わせて使うことが非常に難しいことが、コミカルに描写されています。

始めに意図ありき

なぜ、AIは将棋や囲碁で人間を負かすことができるのに、言語を理解するという簡単そうなことができないのでしょうか。ややネタバレになりますが、私の関心事でもありますので本書の結論を引用します。

…私たちが「他人の知識や思考や感情の状態を推測する能力を持っていること」です。つまり他人も自分と同じように心を持っていることを認識し、自分の立場からだけでなく、他人の立場からも考えることができるということです。これは言うまでもなく、機械にとって難しい「意図の理解」が、私たちにある程度こなせる理由の大きな部分を占めています。

おそらく、人間が言葉を学び、話し始めるよりも先に、エピソード記憶や手続き記憶を備えていたのでしょうし、食料を探し、外敵から逃れ、群れの中で他者と協力し、異性を探すという意図を備えていたはずです。加えて、他人がそのような意図を持っていることを理解して推測することができていたはずです。

 

少し前、私がトルコを旅行した際に、印象深く覚えていることがあります。私がある田舎町で道に迷い、地元の人に道を聞いたのですが、私のトルコ語力では道を聞くことはできても相手が言っていることが分かりませんでした。そこで私が「lütfen(お願いします)」とだけ言って持っていたノートとペンを渡したところ、そのトルコ人が地図を描いて渡してくれたのです。更に私が地図を見ても道が分からず躊躇していると、彼が手を引っぱって目的地まで連れていってくれました。(トルコ人は概してめっちゃ親切なのだ)

ここで私が発した言葉は「お願いします」という言葉だけであり、言葉の意味からだけでは私が何を欲しているのかは理解できません。けれども、「ノートとペンを渡す」という行為によって、「言葉が聞きとれないので地図を描いてほしい」という意図を完全に伝えることができました。

 

このエピソードから分かることは、言語の意味は言語の中だけに閉じていない、ということです。言語の意味理解は、テキストを見ているだけでは不可能であり、人間の持つ意図の推測をするモデルが存在しなければ、言語の本質的な意味理解はできないと考えています。それには、表面的な機械学習手法の高度化だけでは不十分で、より深い人間理解が必要になるはずです。

おわりに

本書の小説部分は動物たちのコミカルな小説になっていてサクっと読めますし、随所に仕込まれた脱力感を誘う小ネタ的なキャラクターも面白く(カメレオン村での医者である「青緑赤ひげ先生」やらイタチ村のローカルタレント「ヨカバッテン板橋」などなど)、版画風の挿絵も可愛らしいです。とは言え簡単で軽いだけの小説ではなく、研究者らしく註と参考文献も充実しており、近年の自然言語処理研究へのアクセスという点でも優れています。

自然言語処理に興味のある人はもちろん、自然言語処理の知識は無いけど言語に関わる人、語学教師や国語の先生などに読んでほしいと思います。

 

『ちいさい言語学者の冒険』

 

ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)

ちいさい言語学者の冒険――子どもに学ぶことばの秘密 (岩波科学ライブラリー)

 

 

この本は、言語学者である著者が、自身の息子がことばを身につけていく過程で表われた言い間違いや文法ミスをもとに、言語獲得の過程と理論を解説する本です。

 私たちは、母語である日本語を普通に使いこなしていますが、改めて言語を考えてみると、非常に複雑な構造を持っていることが分かります。大人になってから今自分が話している言語を考えてみても、どうやって言語を学び、獲得したのかはよく思い出せません。しかし、今まさに言語を学んでいる子供の間違いを観察することで、言語獲得の過程、その一部を観察することができます。

 

著者は、子供の言語の間違いが単なるデタラメではなく、首尾一貫して規則的に間違う傾向にあるということを示しています。

たとえば、「死ぬ」という動詞の活用。 多くの子供が、「死む」「死まない」「死めば」と間違った活用を使ってしまうのだそうです。これは、子供が「虫さん死んじゃった」「死んでないよ」などのやりとりを通して「死んだ」という活用形を学び、「飲んだ」→「飲む」、「読んだ」→「読む」などから類推して「死んだ」→「死む」という動詞の原型のルールを類推しているのではないか、と著者は推測しています。

 

ちなみに、動詞の活用に関しては、私の息子による印象深い言い間違いがあります。

 

「パジャマ着てね」(風呂に入った後、フリチンで走り回る息子に対して)

「イヤだ、着らない」(本人は「着ない」のつもり)

 

おそらく、「行く-行ない」、「知る-知ない」の5段活用から類推して、「着ない」という活用形を作り出してしまったのだろう、と考え、言語に対するルールを見出す子供の能力に感心した記憶があります。

 

また、個人的に非常に面白いと感じたのが、日本語の拍(モーラ)の数え方に関する話です。俳句の575のように、日本語の音の長さを数えるとき、大人の日本語話者であれば全員が一致する数え方があります。たとえば、「ん」は日本語では1拍です。しかし、「ん」を独立した単位として扱う言語は、実は少数派なのだそうです。ところが、文字を覚えたばかりの子供が「うんち」の「う」の一文字だけを「うん」と読み、「ん」が重複していると怒るエピソードから、どうやら文字を覚える前の子供は「拍」ではなく「音節」で音の長さを数えているのではないか、という説が提示されています。

 

本書が扱う言語学の分野は、音韻や文法以外にも、言葉の意味や語用論(ある表現を使う意図)にまで広い範囲に及んでいます。内容的には入門手前の概説のレベルで、既知の内容も多かったですが、堅苦しい研究書ではなく、随所に挟まれる子供の言い間違いがいちいち面白く、思わず笑いながら読めてしまいます。

現在言語を習得中の幼児を育てている人、日本語教育に関わる人、twitterで575ツイートがなぜか気になってしまう人などにオススメしたいです。

TOEICで900点取ります

会社からの指示で、TOEICを受けることになりました。3年半くらい前に受験した時にはギリギリで900点に届かない程度だったので、今回は 900点取ることを宣言します。

英語に関するプレッシャー

英語以外の語学に関するブログなどを書いていると、「英語なんかもう完璧だから他の言語を勉強しているんでしょう。」と言われることもありますが、全くそんなことはありません

自慢でも無いし謙遜もしませんが、たぶん、自分は留学や仕事で英語を使うわけではない日本人としては必要十分な英語レベルに達しているだろうと思うのですが、自分の中では未だに英語に対する妙なプレッシャーがあります。

世間の英語万能主義国際化イコール英語化という視野狭窄に反感を感じつつも、完全に無視することもできない。自分と英語の関係はそんな感じです。なんとなく、TOEIC 900点が取れないと微妙な英語コンプレックスが残り続けるような感覚があるので、ちゃんと900点を取っておきたいと思います。

購入した教材

公式問題集をベースにして、ネット上で評判の良かった「新形式精選模試」を使おうと思います。

TOEICテスト公式問題集 新形式問題対応編

TOEICテスト公式問題集 新形式問題対応編

 

 

公式TOEIC Listening & Reading 問題集2

公式TOEIC Listening & Reading 問題集2

 

 

 

TOEIC(R)テスト 新形式精選模試 リーディング

TOEIC(R)テスト 新形式精選模試 リーディング

 

 

TOEIC(R)テスト 新形式精選模試 リスニング(CD-ROM1枚つき)

TOEIC(R)テスト 新形式精選模試 リスニング(CD-ROM1枚つき)

 

 

 

 

外国語の発音を学ぶならブログ記事なんか読んでないで「音声学」を学ぼう

前回のエントリが少し評判が良かったので、補足の記事を書きます。

インターネット上でブログなどを検索すると、外国語 (特に英語) の発音を解説した記事を見つけることができます。日本人が苦手とする「L」と「R」、英語で「ア」で表わされる音の違い「hat」、「hut」、「hot」なんかは有名ですね。

ただし、インターネット上のブログ記事はどうしても断片的で非体系的なものになりがちなので、真剣に発音を学ぶつもりならば、1冊書籍を買って体系的に学んだほうが良いと考えています。外国語の発音に関しては、言語学の中の一分野である「音声学」で多くの研究が蓄積されていますので。

というわけで、私が読んで参考になった音声学の書籍を3冊紹介します。

  • 脱・日本語なまり
  • ファンダメンタル音声学 
  • 実践音声学入門 
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あまり知られていないけど日本人が注意するべき外国語の発音

日本語話者が外国語を学ぶ際には、日本語の発音や表記法に由来する発音上のクセを意識的に修正する必要があります。「see [s]」と「she [ʃ]」や「r」と「l」の区別、日本語に存在しない英語の「v」、「th [θ], [ð]」などは有名で、よく取り上げられることがあるので知っている人も多いでしょうが、ここではあまり注目されないけれど注意するべき外国語の発音をまとめました。

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画像はWikipediaから切り取り

 

  • 母音「ウ」
  • 二重母音と長母音
  • 母音の無声化
  • ハ行子音
  • まとめ
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